キッズデザインの基本的考え方
平成23年3月31日
経済産業省製造産業局
デザイン・人間生活システム政策室


はじめに
 すべての子どもは社会の宝であり、その人権を守ることは社会の責務である。
 キッズデザインとは、子どもが安全かつ感性豊かに育つための社会環境を、デザインを通じて整備することである。同時に出産や子育てを支援し、子どもを産み育てやすい社会環境を、デザインを通じて整備することである。

 本考え方は、キッズデザインによる製品・環境・サービスの普及を目指す上で、キッズデザインをどのように捉え、製品・環境・サービスの開発へと結びつけていくか、その基本的な考え方を明らかにし、関係者に示すものである。
 本考え方により、製品・環境・サービスを提供する者が、子どもや出産・子育てする者にとってより良い仕組みを、デザインを通じて構築し、それを維持・継続していくとともに、すべての生活者がキッズデザインを認識し、子どもに関する情報が社会で共有され、デザインへと還元されていくことを期待する。

 なお、本考え方において子どもとは、0歳から14歳までの者をいう。また、デザインとは、様々な課題を解決するための創造的な計画、及び行為であり、モノやコトの理念や形式、そして具体的な機能、形態、設計、生産に関わる事項全般をいう。



<キッズデザインの基本的理念>
○子どもの視点をデザインに取り入れることで、製品・環境・サービスの価値を継続的に発展させること


子どもは社会が守り育てるべき存在であることを認識し、常に子どもの発育・発達の視点に立ち、製品・環境・サービスを子どもの立場からも捉える。
子どもや子育ての視点を取り入れることで製品・環境・サービスが本来持つ価値を高め、新たな製品・環境・サービスの開発につなげ、子どもが安全かつ感性豊かに育つことができる社会を築く。



<キッズデザインの適用範囲>
○子どもが接触しうるすべての製品・環境・サービスを対象とすること


子どもを直接の使用者と想定した製品・環境・サービスのみならず、子どもが接触しうる可能性のあるすべての製品・環境・サービスを対象とする。
すべての製品・環境・サービスにキッズデザインが導入できることを認識し、課題発見とその解決策を、デザインを通じて具体化する。



<科学的根拠に基づくデザイン>
○年齢ごとの子ども特有の身体特性、行動特性を理解し、科学的根拠に基づいたデザインを実践すること


子どもの年齢ごとの特性を知り、製品・環境・サービスの目的に合わせて、安全性の確保、身体的発育や運動能力の向上、知識や経験の蓄積を促すデザインを実践する。
過去の事故事例や身体寸法等のデータを、業種・分野を超えて参照、活用することで、製品・環境・サービスが子どもに与える影響を学び、デザインを実践する。



<安全・安心-重篤な事故を繰り返さないデザイン>
○子どもの正常な発育・発達において自然に起こり得る行為においても、重篤な事故につながらないデザインを実践すること

子どもを取り巻く事故が毎年同じように起こっている事実を認識する。
子どもの事故は予測不可能なもの(Accident)ではなく、予測可能なもの(Injury)と捉え、デザインを実践する。
子どもの正常な発育・発達において自然に起こり得る行為においても生命を脅かす事故、自らの危険学習につながらない重篤な事故を回避するデザインを実践する。



<創造性-子どもたちを育むデザイン>
○子どもの発育・発達に必要な自発的、創造的な行為を積極的に促す工夫をすること

子どもが感性豊かに育つきっかけとなり得る、子どもの自発的、創造的な行為を、積極的かつ直感的に行なえるよう誘発するデザインを実践する。
身体能力や感性、コミュニケーション能力向上の契機を与えるデザインを実践する。



<産み育て-子どもたちを産み育てやすいデザイン>
○子どもを産む者、子育てする者を支援し、子どもを産み育てる喜びをデザインの力で広めること

出産や子育てに伴う行為を製品・環境・サービスによって支援し、少子化や育児不安などの社会課題を解決し、子どもを産み育てやすい社会を実現する。



<デザインプロセスにおける配慮>
○製品・環境・サービスの企画、調達、生産から運用に至るまで、子どもの発育発達を阻害する要因の排除に努めること

製品・環境・サービスを生み出すための企画、調達や生産プロセスにおいても、子どもの発育・発達を阻害する要因の排除に努める。
個別の製品やサービスの組み合わせ、あるいは製品・環境の運用についても同様の配慮を行ない、継続的な見直しと対応を実施する。



<キッズデザインの知識循環に向けて>
○子どもに関する情報を共有し、デザインへ還元するための協働を促すものであること

子どもに関する情報を社会で共有、知識化あるいはデザインへ反映することによって、子どもや子育てにとってより良い社会づくりを継続的に行なう。





(参考)キッズデザインの基本的考え方 検討メンバー(平成22年度キッズデザイン製品開発支援事業 キッズデザイン基本的事項検討委員会)


座 長
 持丸 正明(独立行政法人 産業技術総合研究所デジタルヒューマン工学研究センター)

委 員
 浅香 嵩 (日本インダストリアルデザイナー協会)
 石井 賢俊(インダストリアルデザイナー、NIDOインダストリアルデザイン)
 宇田川将生(東京海上日動リスクコンサルティング 製品安全・環境事業部 製品安全マネジメント第二グループ)
 タン・ミッシェル(帝塚山大学教授)
 山中 龍宏(小児科医)
 菊田 俊成(三菱電機株式会社 リビングデジタルメディア技術部)
 葛巻 清吾(トヨタ自動車株式会社 技術統括部 先端・先行企画室)
 菅野 泰史(大和ハウス工業株式会社 総合技術研究所 フロンティア技術研究センターライフサポート研究グループ ユニバーサルデザインチーム)
 宮本 楽 (森ビル株式会社 建物環境開発事業部 設計部設計事務グループ)